Organics

About Organic

オーガニック とは、本来 有機体 、生体組織 といった意味があります。
バイオロジカル という言葉とともに、今日では ナチュラル、化学物質無添加、エコロジカル、
安全、安心 という意味とイメージが持たれるようになりました。

近年、健康や環境保護に対する消費者の意識が高まるにつれ、
オーガニック人気はさらに広い層へと広がり、
オーガニック市場は、注目のトレンドとして、その市場規模は拡大を続けています。

そして今日、オーガニック製品を選ぶ消費者は「無添加で安全だから」、という理由だけでなく、
品質のよさ、デザイン性、高機能である、などのブランドイメージや、 リーズナブルな価格帯 、
そして オーガニック認証マークの有無や認証機関の種類などへと、
好みやライフスタイルによって、選択肢が分かれはじめています。

 

About the History of Organics

60’s ヒッピーとオーガニック・ムーブメント

もっとも初期のオーガニック・ムーヴメントは、化学窒素肥料への反発から1900年代初期に起こりました。
その後、再びオーガニック・ムーブメントが起こったのは、1960年から1970年にかけてのアメリカとドイツにおいてでした。1946年に戦争が終わったアメリカでは、急激に増加した人口を支えるため、安価で大量に生産できることから、農作物や畜産物とともに医薬品にも危険な化学製品が使用され、1960年代に健康被害があらわれてしまいました。
当時、反戦を訴えていたヒッピーと呼ばれた人々は、この社会問題に対し起こした 反農薬 反アグリビジネス 活動で、化学肥料と化学農薬を使用せず、堆肥など天然の栄養だけをつかって育てられた農作物のみで生活するライフスタイルを提唱し、彼らの主張と活動はオーガニック・ムーブメントと呼ばれました。

 

アグリビジネスへの疑問

環境に負荷をかけない農業を実践する というオーガニック農法は、1924年にはドイツのルドルフ・シュナイターによる バイオダイナミック農法 で、すでに提唱されていました。

1930年代に第二次世界大戦が始まったアメリカでは、作家であるルイス・ブロムフールドがヨーロッパから祖国アメリカに帰らざるを得なくなり、そこで当時行われていた過剰な肥料と農薬使用のアメリカの農業のありかたに幻滅します。
そして、自ら購入した1000エーカーの農地で、化学肥料と農薬を使わず自然栽培をおこないました。作家ルイスは、アメリカにはじめてオーガニック農法を導入し、当時から続いている彼のオーガニック農園「マラバル・ファーム」は、現在アメリカでもっとも有名な農園とされています。
そして今日の「循環型有機農法」に大きな影響を与えたのが、J.I.ロデールでした。
同じく第二次世界大戦をむかえたアメリカでは、チッ素が爆薬原料につぎ込まれたせいで、肥料はあっというまに不足してしまいました。チッ素肥料なしではほとんど収穫ができないほど、痩せたアメリカの農地にショックを受けたロデールは、まず作物を植える土壌を健康にすることを提唱しました。農地を健康な土壌に回復させるために、化学肥料や農薬、化学合成ホルモン剤はもちろん、化学肥料で育った作物のたい肥さえ、もちいませんでした。ロデールのバイオロジカルな農法は、今日の循環型有機農法 の基礎となっています。

 

有機農法運動と、オーガニック認証機関

戦後、各国は急増した人口を支えるために、グリーンハウスによる施設栽培が急速に拡大しました。肥料・農薬の浪費型農業化が進み、1960年代には、ヨーロッパ、アメリカだけでなくアジアでも施設栽培の耕地面積が広がります。

先進諸国でそのような浪費型農業が広がる一方で、化学肥料と農薬を使用しない資源循環型のオーガニック農法は、ヨーロッパで確実に根づいていました。1972年、国際有機農法運動連盟 iFoam がフランスのパリで発足し、あいまいだったオーガニック農法の基準を定め、その基準に沿ったオーガニック農法の普及活動を先進諸国ではじめます。

設立当初こそ人々の関心はあまり集まりませんでしたが、その後の環境破壊や食品の安全性への不信感が高まるにつれ、先進諸国でiFoamの必要性が重視されていきます。その後、各国のもとではiFoamが定めたオーガニック農法ガイドラインをベースとしたオーガニック認定機関が次々に設立されていきます。

 

オーガニック・ムーヴメントから、オーガニック・ブームへ

第二次世界大戦という歴史的に大きな出来事は、 皮肉なことに「オーガニック農法」と 「環境制御型施設栽培 」というふたつの対照的な農業の流れを生みだし、それぞれが独自に発展していくことになります。
その流れのなか、1990年代後半から2000年にかけては、環境保護の必要性や遺伝子組み換えなどの食の安全に対する不安から、自然発生的にオーガニック農法へのニーズが高まります。しかし60年代の時のブームと大きくちがったのは「オーガニック製品は高級、スタイリッシュ」 というイメージが強く持たれ、高所得者層を中心に広まったことです。

当時のブームでは、農畜産物だけでなく、オーガニック・コットンや、自然派のコスメなど生活用品も提案され「オーガニック 」という、新たなライフスタイルが誕生しました。

 

ハイドロポニックスにも、オーガニックブーム

そして、このオーガニック・ブーム以降、オーガニックは先進諸国のアグリビジネスにも大きな影響を与えます。例えば、無機質の化学肥料と無機質の培地だけを使用していたハイドロポニックスでは、有機質の資材が導入されはじめます。
以前にも、有機成分とハイドロポニックスを組み合わせた栽培方法は、NASAなどで研究されていましたが、実用化には至りませんでした。

オーガニック栽培の農作物は、「安全なうえ、おいしい」という理由から、割高であったにもかかわらず売上を伸ばしていました。グリーンハウスなど完全制御型の施設栽培では、栽培効率や収穫量が重視されていましたが、消費者の品質へのこだわりが高くなるにつれ、テイストなどの品質向上技術がもとめられるようになりました。

そのため、ロックウールやハイドロボールなどのハイドロポニックス培地以外にも、天然植物繊維の培地での養液栽培がはじめられました。とくにココヤシ繊維での養液栽培は、メンテナンスが楽であること、収穫物の品質のよさ、栽培効率のよさから、施設栽培でも多く導入されるようになります。

この頃から、歴史上はじめて本格的にオーガニック栽培とハイドロポニックスが、融合をはじめます。

 

Hydroponics & Organics 〜 フュージョン・ファーミングへの進化 〜

農業にとってオーガニック・ブームはよい面だけでなく、へい害や誤解も引き起こしました。先進国の多くで「オーガニック 」という表示さえあれば農畜産物が売れる時代となったため、品質の粗悪な有機肥料や農産物が流通したり「100%オーガニック」とうたいながら、化学合成ホルモンや農薬が使用された農業資材や農産物もありました。

このような事例から消費者は、単なるオーガニックという表記ではなく、オーガニック認証マークの有/無や、どの認証機関で認められた製品なのか、という品質の安全を求める消費者がふえました。ストイックなオーガニック愛用者やベジタリアンは、認証機関の有機農法のガイドラインよりも、さらに厳格なオーガニック農法にこだわることさえあります。

一方、オーガニック・ブームが引き起こした大きな誤解は「シンセティック(化学合成)は、絶対によくない」 という化学物質をけぎらいする風潮です。この考えは「 オーガニック栽培さえすれば、高く売れるし失敗もない。いいことだらけだ。」と不勉強のまま安易に実践する農業生産者を増やし、肥料過剰での生育不良や、土壌の汚染、病気の発生などの深刻な問題が少なからず起こってしまいました。

オーガニック栽培 の実践の難しさと不確かさから、化学肥料の確実さと手軽さを見直す気運も生まれました。
自然環境にも、作物の生育にもベストな栽培方法を模索していくうちに、オーガニック農法とハイドロポニックス、双方のメリットを取り入れた中間的な栽培方法が誕生していきます。

そのようなハイブリッド的な栽培方法のなかで、広く普及したものは、 化学肥料 と ココヤシ繊維の有機培土 の組み合わせである「ココポニックス」 、そしてプラスティック製のハイドロポニックス・システムを利用して農作物と魚をいっしょに育てられる 「アクアポニックス」 などがあります。
そのほかには、土壌や有機培地をベースとして、有機物を液体堆肥化させた「コンポスト・ティー」と化学肥料を組み合わせた養液で、植物を栽培するといった方法です。この方法では、収穫後の残さや有機培地は、自然のサイクルのように微生物の力によって処理し、ゴミを肥料資源に変えたり、健康な土壌を半永久的に保つこともできます。

「フュージョン・ファーミング = 融合型農法」とも呼ばれるハイブリッドな栽培方法は、有機肥料/化学肥料にとらわれず、あらゆる組み合わせのなかで、栽培者にも環境にも負担が少なく、もっとも確実に品質の高い農作物を育てる方法です。

オーガニック栽培とハイドロポニックスのハイブリッド的な養液栽培は、今後さらにマニュアル化される必要がありますが、高額な栽培システムや資材は必要なく、ありふれた農業資材で対応ができます。そして、肥料の過剰施肥を防ぎながら収穫を確実にし、さらに土壌や環境を健康に保つことができます。また、限られた小さな耕地で、連作障害を起こさず持続的栽培を可能にするため、小規模農家や家庭に向いた栽培方法といえます。

 

ハイドロポニカリーなオーガニック肥料

今日の、ホビーガーデナー向けハイドロポニック市場では、ハイドロポニカリーなオーガニック肥料の人気が高まっています。
「ハイドロポニカリー = 養液栽培的な〜」という意味であり、ハイドロポニックのように、おもに培養液の肥料成分と水分で植物を育てる栽培方法を総称して、このように呼びます。ハイドロポニックと大きくちがう点は、肥料をほぼ含まないピートモス、ココ培地など植物繊維由来の有機培土をミックスした有機培土、あるいは、コンポスト(堆肥)など有機物を施した園芸用土など、有機質を含む培地を使用することです。有機培土は、保水性、保肥性が高く、根に対してクッションのような役割をするため、肥料がおだやかに長持ちしながら効き、水耕栽培のように培養液管理を厳密におこなわなくても勝手によく育つ、というメリットがあります。

とはいえ、ハイドロポニカリーなオーガニック肥料 は、必須肥料要素をほぼすべて含んでおり、吸収性が高く、即効性があることが大前提となっています。このことから、牛糞、骨粉など動物由来原料の有機物肥料は、微生物の分解を必要とするため即効性が期待できない、という点と、BSEをはじめとした疫病感染防止対策から輸出入に厳しい制限が設けられているため流通しにくい、という点から、ハイドロポニカリーなオーガニック肥料 の原料に使用されることは、ほぼありません。

ハイドロポニカリーなオーガニック肥料に使用される原料は、主に廃糖蜜、海藻などの植物由来のものが挙げられます。これらは、発酵や加工などですでに低分子化されているため、硝酸菌など土壌微生物による分解を必要とせず、吸収性が高いため即効性があり、微量ミネラルも豊富なので、同時に有機培土内で有用菌を増やすメリットなどもあります。

とはいえ、このようなオーガニック肥料は、ロックウールやクレイペブルスなどを使用したハイドロポニック・システムで使うことはできません。この大きな理由は、ロックウールやクレイ・ペブルスは不活性で緩衝作用がなく、保てる酸素量も少ないため、次第に培養液中には嫌気性の腐敗菌が増殖してしまうからです。

ココ培地やピートモスなどの植物繊維由来の培地は、すき間が多く空気をたくさん含めるうえ、緩衝作用があるため腐敗菌が発生しにくいことと、根の酸素吸収量が非常に多くなることと、そして、ハイドロポニック・システムで培養液に浸って育つ根毛よりも、何倍もの微量ミネラルを吸収できる根毛が育つため、健康で丈夫に、風味の高い作物を ビギナーでさえもカンタン、確実に育てることができるのです。
また、赤玉など無機の園芸用土を使用しない「ソイルレス・ポッティングミックス培土」と、オーガニック肥料 の組み合わせは、ハイドロポニック・システムと比較すると、培養液の使用量も非常に少なくなるため、味にうるさく倹約家である欧州のガーデナーのあいだで非常に人気があります。この組み合わせは、勝手に育つ感が大きく、ビギナーのガーデナーにさえ自信を与えます。一方、注意しなくてはならないことは、北欧の寒冷湿地帯で形成されたピートモスが主原料の「ソイルレス・ポッティングミックス培土」は、日本の夏のような高温多湿下では、半年を過ぎたころから急速に分解が早まり、保水性が低くカチカチになってしまうため、一年以上の栽培作物にはココ培地の方が適しています。尚、ココ培地単体での栽培には「CANNA COCO A/B」のようなココ培地専用の肥料が適しています。

 

「有機」と「無機」の融合、ハイブリッドでよりエシカルに

市場規模ばかりに注目が集まるオーガニック・ブームが続くなか、100%オーガニックにこだわらず、安全性が確かでエコロジカルであれば、手軽さや機能性を重視するというアイデアから、 オーガニックとシンセティック を融合させた農法や製品がふえてきています。

この融合は、かつてアグリビジネスへの反発から起こった オーガニック・ムーヴメント  の敗北でもなく、 循環型有機農法  の誤用でもなく、より多くの人々が手軽でエコロジカルに、知らず知らずのうちに彼らが目指したエコロジカルなスピリットを実践できるという側面も、あるのではないでしょうか。